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ウオールストリート・ジャーナル 2015年12月1日記事 放射線に関する規範の変更

ウオールストリート・ジャーナル 2015年12月1日記事 放射線に関する規範の変更

合衆国の規制当局は、放射線安全基準を根本的に変更か

地球温暖化対策に関し、オックスフォード大学名誉教授のウエイド・アリソン氏は、今週のパリでの気候サミットにおける全ての提案よりも、より現実的なアイデアを抱いている。即ち、原子力発電所からの公衆及び従業員に及ぼす放射線量の許容上限を、従来の1000倍に増やすことである。

パリに集まった政治家達は、サミットのホスト国(フランス)が、一人当たりの所得では20位なのに温室効果ガスの排出では50番目である事に気づくかもしれない。その訳は周知のとおり、フランスは総発電量の75%を原子力によって賄っているからである。フランスは、他の国々が1950年代以降、核戦争の恐怖と大気圏内核実験に関連する理由から、放射線の被曝は量に比例して常に危険であるという裏付け無きドグマ(LNT仮説;訳注)に.縛られてきた中も、その潮流に抗して原発を推進してきた。

このドグマ(LNT仮説)とは、簡単に言えば、秒速1フィートで発射された弾丸が、あなたを殺す確率は、秒速900フィート(現実に45口径オートマティックの発射速度)の場合の900分の1であるというようなものである。この直線閾値なし(LNT)モデルとして知られる仮説によれば、チェルノブイリや福島の事故は何千人もの癌死を招くという予測になるが、現実にはそうなっていない。

スエーデンはチェルノブイリの事故後に行われたトナカイ肉のほぼ1年分の供給量の廃棄処分は不必要であったと、2~3年前に最終的に認めた。
2013年に日本においては(東日本大震災:訳注)被爆――それは健康影響は殆どなく、例えばフィンランドの住人が、日常的に受けている量より少なかった――を避けるためとして強制的に避難させられた人たちのうち、1600人もが失わなくてもよい生命を(自殺や必要な医療を受けられなかった事を含んで)断たれた。

2001年にはアメリカの当時の原子力規制委員長が、チェルノブイリ事故に起因し得る白血病の過剰な発症は認められなかったことを認めた。

1980年代の台湾で、放射性コバルトによって汚染された鋼材を再利用した1700のアパートが建築された。2006年の調査で同アパートの居住者たちの癌罹患率は通常よりも低く、研究者達は放射線の推定危険率を再考する事によって、原子力発電施設の運用において、数十億ドルの費用が削減可能であり、原子力発電所の建設ももっと容易に出来るであろうと述べている。

この提言は正当なものである。事実、誇張された放射線恐怖が、原子力の安全化コスト、廃棄物貯蔵コスト及び許認可コストを釣り上げる重要な要因となってきているのである。

アメリカ原子力規制委員会は自然放射線の環境の下で進化してきた有機体は低レベルの放射線に対して、細胞防御反応を持つこと―ホルミシスと呼ばれる―を考慮に入れた、より先進的な思考を考慮した安全基準の見直しを行うべきかという議論の公募を始めた。この見直しの請願者の一人であるキャロル・マーカス博士(UCLAの放射線医学教授)は、LNT仮説が科学的根拠を欠いており、この仮説に根拠をおいた法令の為に、非常の多額の費用がかかっていること指摘している。

アリソン氏及び、毒物学者でこの問題で何十年に亘って(LNT仮説と:三浦注)闘ってきたマサチューセッツ・アマースト大のエドワード・J. カラブリーズは賞賛に値する。この 10月“環境研究誌”に発表されたカラブリーズ教授の最新論文では、1950年代にマンハッタン計画に関わった遺伝学者達が、自分たちの研究の権威を高めるために、LNT仮説の採用を推進したかを検証している。

現在までに何百もの論文が、LNTに対する反証を積み上げている。ミュンヘンンの放射線生理学研究所が発表した昨年の研究論文は、低線量放射線がある種の細胞防御機能を引き起こすことを示した。

これらの研究成果は重要な結果をもたらす。安全性或いは効率性両方のコストにおける優位性に関係なく、石炭が21世紀初期の頼れる電力源となってしまった。中国とインドは現在なら石炭を選ばないだろう。彼らは、現在先進工業国において開発済みの製品群の中から、価格が手頃で安全、クリーンな原子炉を選ぶであろう。

我々はこれまでどれほど愚かだったのだろうか?原子力産業の有史以来の事故死者数を上回る人間が、石炭鉱山では1カ月の間に死んでいる。
こう言えば多くの反論が寄せられるかもしれないが、LNT基準を適用するならば、石炭は原子力よりも危険である。石炭使用施設が放出する微粒子、重金属類及び放射線物質は、アメリカ肺学会によれば、年間13,200名の死者をもたらすと推定されている。

アル・ゴア(環境保護を訴えた元大統領候補)の論理をここで再び考えてみよう。1980年代、気候変動(炭酸ガスの増加や地球温暖化など:訳注)について政治家が重視し立ち上がった時に、炭酸ガス問題についての最も適切な解決策だったにもかかわらず、彼らは観念的な思想信条に基づいて原子力を拒否した。

オバマ政権は、少なくとも左派の支持者の監視がなければ冷静な判断ができるはずだ。ホワイトハウスでは間違いなく、原子力安全基準の改定に、緑(過激な環境保護論者)のグループが気付かないでほしいと日々祈っているはずだ。もしかしたら、キーストーンのパイプライン事故は結果として良かったのかもしれない。

残念ながら、ニューヨークタイムズの小うるさい論評が緑の運動に対する裏切りだと訴えるだけで、大統領は気候変動という難問に役立つ数少ない姿勢の一つを放棄する危険性がある。

2016年1月6日 翻訳 高山三平