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書籍紹介 高田純著 復活の牧場 報告2013 震災元年から始まった福島県浪江町での生命の科学調査

書籍紹介

復活の牧場 報告2013 震災元年から始まった福島県浪江町での生命の科学調査

高田純(理学博士 札幌医科大学教授)著

放射線防護情報センター発行

 

本書を開くと、まず鮮やかなカラー写真が目に飛び込んできます。最も印象的なのは、浪江町での牛たちの、しかも元気で健康としか見えない姿です。著者は、大震災直後の平成23年4月に福島県二本松市を調査に赴いたとき、浪江町に残してきた牧場の牛たちの様子を調べに行きました。その牛たちは著者によれば、1か月も放置されていたのに、急性放射線障害は全く見られず、人恋しいのか著者に寄り添ってきました。

戦争中の上野動物園での、象をはじめ多くの動物たちが薬殺された悲劇を描いた「かわいそうなぞう」という童話は多くのひとがご存じと思います。勿論悲しい話ですが、戦争中、空襲の危機のある中、やむおえない処置だったのかもしれません。しかし、震災後の福島では、多くの家畜たちは、必要もないのに死に追いやられていきました。その中で、著者の協力者である山本幸男氏をはじめ、浪江町の和牛改良友の会は、通行許可証をもらっては現地の牧場を訪ね、牛たちの命を救ったのでした。

著者は、当時の日本政府は避難のための輸送体制を敷き、家畜やペットも救出する義務があったはずだとかっての菅民主党政権を強く批判します。非道な共産国と言われてきたソ連ですら、チェルノブイリ事故後は、事故10キロ圏内7809人、30キロ圏内42000人、1万3千頭の牛、3千頭の豚がバスやトラックで避難したことを指摘し、それなのに日本の菅首相(当時)は、置き去りにした家畜を殺処分し、1万頭以上の家畜が死んだのでした。県民は自主避難という無責任な処置がとられ、入院患者など70人が亡くなったのも痛ましい「人災」でした。

本書は、その後著者が浪江町で継続的に和牛、牧畜者、土壌の実態を、2011年4月から2013年9月まで12回に渡って調査した内容の報告を通じて、牧場のみならず、福島全体の復興と未来への希望を提起したものです。

著者は福島の復興のため、まず現実を報告することからはじめています。「報告1 震災二年目の波江町の和牛体内セシウムの大幅低下」では、2012年2月から10月までに延べ35頭の和牛の腿部のセシウム放射線を検査、15頭は1キロ当たり500ベクレル以下であり、傾向としてセシウムは大幅に減少しており(理由は野草のセシウム濃度の低下にあると著者は推定しています)この後牛たちは牧柵の中で飼育されており、体内のセシウムは平均実行半減期が55±3日の速さで減衰していること、今後放牧地の表土10センチを除去し新たな牧草地を作り出せば、この地の畜産業は再建できると提言します。

さらに著者は「報告3 放牧地のセシウム除染試験の成功」にて、過去のチェルノブイリ検査の結果から、空から降下したセシウムは、地表深さ10センチ以内にほぼ付着することを指摘した上で、実際に放牧地で3メートル四方を一区画として深さ10センチをはぎ取って、その前後のセシウム放射能密度を比較し、ほぼ平均94%を除染し得たことを報告。さらにこの上に牧草地回復の為に農業用の養分を散布する事での土地の再生を行っています。この他にも、牧畜者の体内セシウム濃度の調査により、一部で誤解されているような健康被害は起きていないことも調査されたと著者は報告しています。

これまで、浪江町の「和牛友の会」は牛たちの命を守ってきました。そして著者はその牛たちと放牧地の科学調査を行うことによって、同地の牧場は復活が可能であること、それは福島の未来に確実につながることを提示しています。「これまでブラックボックス化していた福島第一原子力発電所20キロ圏内の放射線影響の実情」(29ページ)の現地調査を通じて、著者は福島は広島でもチェルノブイリにもなることなく、未来の可能性は開かれていることを本書で指摘し、今後の復興のための現実的な提言をも行っています(強制避難解除、家屋建設、除染した土壌の有効活用など)。前著「福島 嘘と真実」と並び、震災後の現地続科学調査の現時点での報告書としてお勧めします。(三浦)

本書は、書店には並びません。浪江町など福島20km圏内町民への寄贈を中心に真実の拡散に取り組んでいます。詳しくは、次をご覧ください。

http://rpic.jp/cgi-bin/topics/topics.pl?topicsid=00038