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第3回放射線議連勉強会報告「食品中の放射性物質の基準値について」

第3回放射線議連勉強会報告 「食品中の放射性物質の基準値について」
(平成25年10月23日 衆議院第2議員会館第5会議室)
講師:大阪大学名誉教授 中村仁信


衆議院第2議員会館第5会議室にて議員勉強会は午後4時、西田譲衆議院議員の司会で開会しました。まず、放射線議連会長平沼赳夫衆議院議員が挨拶、今日本では感傷的な放射能への恐怖感のみが強調され、放射能は悪であるという認識が高まっている、しかし自分は、冷静で科学的な見地の中で、人類は放射線と付き合っていかなければならないと考えていると述べました。

続いて放射線の正しい知識を普及する会の加瀬英明代表代行が、放射線の安全基準について、科学的な見地からただしていくことが必要だとあいさつした上で、中村仁信教授の講演会が始まりました。

中村氏はスライドを使いつつ解説し、自分はこれまで放射線防護について学び研究してきたが、今日は、食品中の放射性物質の基準値を中心にお話をしたいと講演をはじめ、まず、現在日本が取っている基準値は理屈に合わないということを説明しますと述べました。 そして、現在の新基準値は年間5ミリシーベルトであった暫定基準値が、1ミリシーベルトいう厳しい基準値になった、これはアメリカやヨーロッパと比べても10分の1以下という厳しい基準値であること、そして、このような基準値については、国際規約としてのコーデックス委員会が定めた基準があり、それによれば、飲料水、牛乳、食品、乳幼児用食品が全て1000ベクレル/キログラムと定められている、例えば米国はこのすべてを1200ベクレルと定め、EUは飲料類と牛乳は1000、食品は1250、乳幼児用食品は400と定めている、それに対し、日本は、飲料水10、牛乳50、一般食品100、乳幼児食品50とされている、これほど厳しい基準値にする必要が果たしてあるのだろうかと疑問を呈しました。

そして、これほどの基準値にしてしまった結果、、これまでは何の問題もなく市場に流通していた青森県のキノコに、120ベクレル/キログラムのセシウムが検出されたことで出荷制限になり、同じレベルのものならば世界中で食べられているのに出荷制限がかかったこと、また、横浜市では一個当たり1ベクレル以下の冷凍ミカンが破棄されるなどの事が起きている、そして、この基準値を出してからさらに厳しい基準値を出す生協、一部スーパーなどの「自主規制」まで起き、厳しい基準の引き下げ競争などが起きている。これに対し、福島大学の佐藤理教授は、「基準値が下がれば安全が達成できるのではなく、安心できないレベルが下がるだけだ」と述べており、ある意味、風評被害や、せっかくの安全な作物の覇気が起きるだけだという現実を批判しました。

そして、食品安全員会はこの事態をどう考えているのかと中村氏は続け、この委員会は、どちらかと言えば冷静な議論をしてきたと、毎日新聞2011年3月29日の記事を紹介しました。それによれば、放射性セシウムの基準は、年間10ミリシーベルトまでは健康に影響はないということでほぼ一致し、暫定基準値が5ミリシーベルトですからこれは厳しすぎる、10ミリにしようといったん決めたのに、事務局は現状をさらに甘くすると世論の風当たりが厳しくなることを恐れたのか、5ミリを10ミリに挙げるというのはやめてほしいと言ったようで、事務局に押し切られた形で5ミリシーベルトという基準値を出したようだ、しかしながら、その5ミリシーベルトに対しても、当時の小宮山大臣から、いや、1ミリシーベルトとするようにという指示が出て、結局この厳しい基準値となってしまったと、中村氏は冷静な議論よりも政治的判断が基準値に当てはめられたのではないかと中村氏は述べました。

そして、この1ミリシーベルトを正当化するために持ってきたと思しき理論として、「放射線による影響が見出されるのは生涯における追加線量がおおよそ100ミリシーベルト」という前提に立ち、「生涯」とすれば、だいたい年間1ミリシーベルトだろうという計算からこの数字を正当化したと思う、しかし、その論拠として安全委員会が挙げたデータや論文からは、この「生涯100ミリシーベルト」が健康に影響があるという結論はまったく見いだせないと述べた。そしてその一つとして、放射線被ばくで最も起こりやすい癌は白血病であるけれども、広島原爆の被ばくによる白血病死亡リスクを見ても、200ミリシーベルト以上では確かに白血病と放射能の間には相関性があり、白血病になりやすくなっているが、200ミリシーベルト未満では相関性は見られず、60~90ミリシーベルト以下の場合はむしろわずかではあるが低くなっているというデータを挙げ、生涯100ミリシーベルトが影響を与えるという証拠は全くないと述べました。

そして、原爆のような急性被ばくではなく、慢性の場合は白血病は増えているのかどうかについて、まず中村氏は、初期の放射線科医が、それこそ年間1000ミリシーベルトの放射線を浴びながら仕事をしていたときは確かにガンの発生率は高かったから、このレベルの放射線は危険であるが、生涯100ミリシーベルトが「累積線量」として危険だという考え方はまったく意味がないと述べました。その理由として、線量率効果を無視していることだと指摘しました。これは20世紀初めの、ショウジョウバエの実権をしたマラー氏は、放射線の影響は少しであっても蓄積する、修復されることはないという論文でノーベル賞を受賞しており、今でもその考えが世間に流通しているが、それが科学的には誤りであることは既に証明されている、線量率効果と言って、放射線は、長期にわたってゆっくり浴びる場合には人体できちんと修復されると述べました。

そして、急性被ばくと慢性被ばくの例を挙げ、一度に急性被ばくとして放射線を浴びた場合、修復でできる範囲は決まっている、しかし、これを4回に分けて分割照射した場合、生体の防御能力は放射線の影響を修復できるので、影響は少なくなる。わずか4分割しただけでも少なくなる、放射線治療はこの弁理に基づいているが、これが線量率効果で、これは科学的に証明されていることだと述べました。

そして、分割すればどの程度影響が少なくなるかについて、現在、ICRPは、分割すれば影響は半分になると述べている、これは安全性を高く強調した考えで、動物実験だと、半分から10分の1くらいの数値が出たので高い方(安全側)を取っているのだと説明しました。そして、ただ4分割しただけでも影響は極めて少なくなっている、福島のように、長期にわたる場合はもっともっと修復ができるから影響は少ないはずだと述べました。

そして線量率について、ショウジョウバエの精母細胞(精子と違い、放射線に対しての修復能力がある)に放射線を照射した場合の突然変異誘発率の実験結果を紹介し、線量率を下げると突然変異の誘発率は減少する(0.05グレイ/分で0.2グレイの線量を照射した場合、突然変異発生率は何も照射しないよりも減少する傾向がある)ことを述べ、これはある種のホルミシス効果にあたるのではないかと述べました。そして広島の被爆データをもう一度紹介し、原爆という超高線量率の放射線被ばくでも、200ミリシーベルト未満ではがん死も発がん率も高くないという論文があることを紹介しました。

そしてICRPでは、放射線作業者の安全のためにどのような基準を出しているかを挙げ、生涯1000ミリシーベルトには達しない方がいいという判断のもと、20年間働くとして、年50ミリシーベルトまでなら問題ないというのが1977年の勧告だったとし、その後、1990年に5年で100ミリシーベルトに下げられ、20年働くとしたら生涯400ミリシーベルトが安全となる。そして、一般公衆は、少しでも被ばくが少ない方がいいという観点から、年間1ミリシーベルトと言っているけれども、少なくとも現在の日本の基準値のように、生涯100ミリシーベルトとは全く言っていないと指摘しました。

そして世界では、インド、中国などで高自然放射線量の地域はいくつもあり、広東省陽江県の自然放射線レベルは年2~5ミリシーベルト、インドのケララ州では生涯500ミリシーベルト以上(年平均3.8ミリシーベルト、最大で年35ミリシーベルト)であるが、特に健康被害などは起きていない、また、アメリカの雑誌フォーブスに興味深いデータが出ていたが、アメリカの平均は2.5ミリシーベルトだが、2.7ミリ以上と高い州が8つある、ところがそれらの州では、がんの死亡率が平均をやや下回っている、このような例を見れば、今行われている1ミリシーベルト以上の土地の「除染」がいかに意味がないかもわかるはずだと中村氏は指摘しました。

そして続いてセシウムの問題に触れ、これも誤解があるようだけれど、セシウムの内部被ばくについて、血中に取り込まれたセシウムは全身の筋肉に分布するが、主として尿、部分的には便で排出されること、筋肉はそもそも放射線感受性が低く影響は少ないことを指摘しました。そして、世界中で起きていた核実験でセシウムは世界中にばらまかれたという現実があり、以前から食品や粉ミルクにもセシウムが数十ベクレル/キログラム検出されていた、そして、体重60キログラムの人間には、すでにセシウムは20~60ベクレル既に体内に存在する事を指摘して、過剰に恐れる必要はないと述べました。

また、セシウムはCs137とCs134が半分くらいずつ排出されているが、134の放射線量は137の2.7倍くらい強く、測定されるセシウムの73%は134による。その134は二年で物理的半減期を迎えるため、134+137の合計線量は1年で22%、2年で38%減衰し、3年で半分、10年で23%になるとし、実際、福島では1年で30%くらい減っていると指摘しました。そして、現在の内部被ばくの線量は、預託実効線量という考えから計算され、50年分の線量を積分して預託実効線量とされるが、損傷修復を考慮していない、たとえば、ヨウ素131はバセドウ氏病や甲状腺がんの治療に使われているが、前者は3.7億ベクレル、37億ベクレルのヨウ素131を飲ませ、実効線量は8シーベルト、80シーベルトという計算になり、信じられないような過大な線量になっている、セシウムでも預託実効線量で計算されるので過大評価になっている可能性が高いと述べました。これらのことを考慮すれば、最初から厳しい条件で規制する必要はなく、ちなみにウクライナでは、年50ミリシーベルトから10年以上かけて、年1ミリシーベルトに引き下げていると述べました。

そして最後に、中村氏は自らの結論として、局所の放射線発ガンにはしきい値があること、その証拠として、小児がんは放射線治療がよく効くが、5000人を追跡調査したところ、局所線量1グレイ以下では二次がんの有意な発生は見られないことを示しました。また、全身被ばくでは、原爆の悲劇によって白血病のしきい値が200ミリシーベルトだったことも証明されている、固形がんの場合は生活習慣との複合的影響であるため不明になっていると述べました。そして、適度の低線量率放射線では、むしろ健康の増進効果がみられること、熱ショック蛋白、がん抑制遺伝子の増加、免疫細胞活性化による免疫力の高まり、活性酸素処理能力の高まりなどがみられることを挙げ、動物実験だけでなく、人間のラドン浴や被ばく線量の比較的高いカテーテル術者において、活性酸素処理能力、免疫力の上昇がみられていることを示し、低線量率放射線の長期照射によるがんの抑制効果は、多くの動物実験やアメリカで1999年に発表された原子力船修理工のがん死亡率データなどが示唆するように、今後さらに研究が進めば、適度な低線量率放射線の健康増進効果はいずれ科学的に証明されるであろうと述べました。

そして本日のまとめとして(1)生涯100ミリシーベルト以上で悪影響が出るという考えは科学的に誤りで、現在の新基準値は理屈に合わない(2)セシウムの影響は減衰、預託実効線量から考えて過大評価されている(3)放射線だけによる発ガンには、全身200ミリシーベルト、局所1グレイというしきい値がある(4)低線量放射線の健康増進効果は動物実験だけではなく人においても証明されつつある と述べて講演を終わりました。

しかし厚生省から、この講演を聞いたのちも、年1ミリシーベルトに固執し現在の基準値は見直す考えは今のところないという返答があり、参加議員の中からもその姿勢にいくつもの疑問の声が呈されました。最後に、議連の笠浩史衆議院議員から、民主党議員の立場として、地震当時の自分たちが政権政党だった時期の判断について、もう一度冷静に考える必要があることを認識したという挨拶がなされ、第3回勉強会は閉会しました(文責 三浦)


当日のスライド



スライドのPDF版
http://s-radiation.info/pdf/1023study.pdf